消え残った弦月を眺めていた老人が、
「ひとりで来たようだな。」
と呟き、コッペパンをちぎって立ち上がり、デッキに向かいました。
子猫はちょうど階段を昇り切ったところでした。
「ひとりか?」
老人を見上げて、子猫がニャンと答えました。
「一人でよく来た。」
と言って頭をなぜようとしますと、子猫はたちまち頭を引っ込めてしまいます。
「怖がらなくてよい。」
と手をかざしますと、また、引っ込めてしまいます。
そこで老人は宣言するような調子で言いました。
「ここに来るつもりなら、人間との正しいかかわり方を学べねばならない。
まず、お座りとおあずけだ。」
「では、お座り!」