夕食のあと おっちゃんは 与謝蕪村の
「五月雨や 大河を前に 家二軒」
が、どんなに優れた句であるか もう一生懸命におばちゃんに語ってる。
こうなると 芭蕉の
「五月雨を 集めて早し 最上川」
も太刀打ちできない。
杯は、「土佐鶴」から「白鹿」に移り、勢いますばかり。
小一時間も経ったころ
おばちゃんが画集を開いていちまいの浮世絵を見つめつつ
「春雨や ものがたりゆく 蓑と傘」
「蕪村。 この句には 蓑と傘しか描かれていないけれど、たく
さんの通行人の声が湧いてきて、それがしっぽりと濡れて 行き来す
る庶民の吐息まで聞こえてきます。わたしはこの句が好き」
と、小声で言った。
おいら、傘の下にくろねこちゃんはいないか探した。
おっちゃんの声が頭のうえを通過していく。