京都 宇治の老舗。創業 蔓延元年 1860年。創業者辻利右衛門。
幕末、幕府の力萎え、長く庇護下にあった宇治茶は衰退眼を覆うごときだった。
困難な世相にあって、初代利右エ門は、茶壷に替えて、木製茶びつを考案。湿気、運搬に効力を発揮した。また、生茶を手もみして、針のような形状をもつ高品質玉露の製造に成功した。こうして、全国に販路を広げ、ひん死状態にあった宇治茶を再興した。
おばちゃんは、南座最寄りの辻利京都店が気に入りだった。
いかにもお茶屋さんらしい古い佇まいの隅々までお茶の香りが染み込んでいて、それが揮発して、全身を包んでくれるようだった。
それは、まだ幼い頃から祖父に連れられて、二階のパーラーで食べる抹茶パフェの想い出と重なるのかもしれない。
おばちゃんは茶道の指導教授だ。裏千家のお茶の先生を指導する立場だった。教室では、練習用のお茶とお菓子は安いが上質なものを選んだ。そんな時、たいがい店長さんが対応に出てきて丁寧な説明を受けた。
半島の町に移ってからは、無沙汰を甘んじている。あれから、もう20年にもなる。
おっちゃんでもそこそこ上手く立てられるコツを伝授してくれるという。
抹茶のおいしい点て方としては、1.2.3.4をこころ静め、ゆっくり振る。
1 茶せん通しを三度する。
2 茶匙で、抹茶をニから二杯半入れる。
3 沸騰した白湯を茶杓で、二杯注ぐ。
4 茶せんを前後に力を入れずに自然に振る。左右、丸い動きはけっしてしない。
泡立ちが小さく揃ってくれば、一服出来上がり。
客人役のおばちゃんが、「ご製は?」と問う。
見かけ亭主のおっちゃんは、「四条河原町の辻利茶舗でございます。」と答える。
そんなひと時、おいら、おっちゃんがちょっと立派に見える。